イージーオーダーとパターンオーダーのことA

川淵 勉

■パターンオーダーは販売してから作る既製服■
 
既製服には欲しいサイズがないという大弱点がある。1997年に改正されたJIS規格の紳士既製服には約130ものサイズがある。これはなんともばかばかしい規格で、こんなにたくさんのサイズの製品を作ったら、たちどころにその企業がおかしくなってしまう。紳士既製服は多くのサイズを持っているとは言っても、同一素材、同一デザインで生産されるサイズ数は5から7サイズ、多くてもその倍数ぐらいしかない。一つのブランドとして用意するサイズ数は、最多でも25サイズ程度である。
 
既製服売り場に来られたお客さまが、素材も柄も気に入ったけれども体にフィットするサイズがない。反対に体にぴったりのサイズはあるが、色柄が気に入らない。色柄もサイズもOKだが2つボタンではなく3つボタンが欲しい。それならとサイズを増やし素材の種類やモデル数を増やすとシーズン末には在庫の山が出来てしまう。どうしようもない既製服の宿命的な泣き所である。
 
注文洋服は受注生産だから、失敗作は別にして完成品の在庫はゼロのはずだ。それなら既製服もお客さまに販売してから製品を作ればいいではないか。この表生地であのサイズのものが欲しい。こうしたサイズ不備のために起こる販売の機会損失を防ぐには、お客さまの希望するものをお客さまのサイズで作る方法を案出すればいいわけだ。このときに大事なことは、注文洋服の構造的欠点である仕上がりの品質やデザインに対するお客さまの不安感を回避するシステムでなければならないことだ。パターンオーダーはこのような方向に考え出された。色柄に関してはすでに完成している現物の洋服があるのだから雰囲気を確認してもらうことができる。サイズやシルエットや着心地も体に合う完成品を着てみるのだから思い違いはない。これだけの条件が揃えばお客さまにとっての不安要素はない。
 
そして納期は約2週間、既製服と同価格で既製服と同じものを作るのだ。企業や売り場によっては、特別に作るのだから既製服よりも値段を高く受注するようなケースが見られるが、これは理にかなわない。もともと既製服のサイズに不備があってお客さまにご不便をかけ、2週間もお待ちいただくのだから、むしろそれだけ値段を安くするのが当然だと言えよう。価格よりも大切なことは、その既製服のブランドイメージと特徴を守ることだ。したがってシルエットや細部デザインは変更しないこと。この制約をはずしてしまうとイージーオーダーと同じになり、パターンオーダーの存在意義が消えてしまう。

既製服のサイズ補完と期末在庫の軽減へ■
 
パターンオーダーと呼ばれるこの形態の商品は、とくに高級既製服の売り上げの中に、かなりのシェアを占めるようになってきている。縫製工場のハイテク化が進んで納期が一層短縮されると、このシステムによる販売量がさらに拡大するだろう。
 
一般に既製服の商品企画には、売れ筋と、危険そうだがバラエティとして必要な色柄のものがある。売れ筋のものはサイズも数量も深く生産される。危険な素材のものや出現率の低い端サイズのものは大量には生産せず、原反をストックしておいて、パターンオーダーによってカバーしようとするのが一般的である。もっとも大切なことは、あくまでも既製服のサイズ補完に徹することである。お客さまの言いなりに素材とデザインの組み合わせを変えたり、デザインやシルエットを無制限に変更してしまうと、なによりも大切な既製服のブランドのイメージが崩れてしまう。出来上がる商品は既製服と同じブランドだから、同じ顔を持っていなければならないのだ。また、パターンオーダーが売れるということは、その既製服の商品計画に不備や欠陥があった証しでもある。そのために生じる店頭での売り逃がし防ごうとして生まれたシステムだが、副次的に、既製服の宿命的な弱点である期末の製品在庫を軽減する方向にも働かせられる。さらには次期の商品計画のための貴重なデータとしても活用されるだろう。